介護施設のケアの質と採算性の向上 ~ドラッカー×介護~

入居者A「集団体操よりもマッサージをしてほしいんだけど・・・」

管理者「ごめんなさい。うちの施設ではリハビリの職員は一人しかいないので、個別のマッサージまで手が回らないんです」

入居者B「夏場は汗をかくから、週2回の入浴では気持ち悪いの、なんとかならない?」

管理者「ごめんなさい。うちの施設では入浴は週2回と決めているんです。人手が足りないので・・・」

入居者C「スーパーに買い物に行きたいんだけど連れて行ってくれる?」

管理者「今週は難しいので来週ではどうですか?それとも、今必要なら何かの便で買ってきますよ」

入居者C「実際に見て選びたいのよ」


介護施設において、利用者のニーズに寄り添ったケアを行えば採算性が取れるのかというと、そうではありません。

より良いケアと採算性は別物で、より良いケアをしたからといって採算性が取れるというわけではありません。

だからこそ、介護施設を預かる立場の者として、より良いケアをすることによって採算性が向上するようにマネジメントする能力が求められるのです。

あちらを立てれば、こちらが立たずでは、ただの守銭奴かボランティアのどちらかです。

地域という社会において介護施設の果たすべき役割は大きく、それを預かる立場の者として、数字とケアを結び付け、質と採算性の向上を図ることで、はじめて社会の中に存在意義を見出すことができるのではないでしょうか。

実際に私が行っている介護施設でのサービスの質と採算性の向上を両立させる方法をご紹介します。

この記事を読めば、入居者も職員もみんなハッピーになること間違いなし!!

組織における質と採算性の向上~ドラッカーの考え方~

マネジメントとはなにかと考えると、日本において一番最初に思い浮かぶのは、マネジメントの巨人、ピーター・F・ドラッカーの著書「マネジメント」ではないでしょうか。

マネジメントの巨人、ピーター・F・ドラッカーはその著書「マネジメント」の中で、

はっきり し て いる こと は、 未来 は 現在 とは 違う という こと だけで ある。 未来 は 断絶 の 向こう 側 に ある。 だ が 未来 は、 それ が 現在 と いかに 違っ た もの に なる として も、 現在 からしか 到達 でき ない。 未知 への 跳躍 を 大きく しよ う と する ほど、 基礎 を しっかり さ せ なけれ ば なら ない。

P F ドラッカー. マネジメント[エッセンシャル版]

社会は常に変化している。どう転ぶかわからない、予測できないのが未来である。しかし、一つだけはっきりしていることは、どう変化しようとやってくる未来は、現在と結果、繋がるものでもある。未来へジャンプせねばならないのだから、土台となる現在をしっかりさせよとドラッカーは言います。

また、同著の冒頭では、

企業 を はじめ と する あらゆる 組織 が 社会 の 機関 で ある。 組織 が 存在 する のは 組織 自体 の ため では ない。 自ら の 機能 を 果たす こと によって、 社会、 コミュニティ、 個人 の ニーズ を 満たす ため で ある。 組織 は、 目的 では なく 手段 で ある。 したがって 問題 は、「 その 組織 は 何 か」 では ない。「 その 組織 は 何 を なす べき か。 機能 は 何 か」 で ある。

P F ドラッカー. マネジメント[エッセンシャル版]

あらゆる組織に共通する条件がある。すべての組織や企業は、個人含め社会のニーズを満たすために存在しており、そのためには、社会から必要とされ続けなければならないということだとも述べています。

真 の マーケティング は 顧客 から スタート する。 すなわち 現実、 欲求、 価値 から スタート する。「 われわれ は 何 を 売り たい か」 では なく、「 顧客 は 何 を 買い たい か」 を 問う。「 われわれ の 製品 や サービス に できる こと は これ で ある」 では なく、「 顧客 が 価値 あり と し、 必要 と し、 求め て いる 満足 が これ で ある」 と 言う。

P F ドラッカー. マネジメント[エッセンシャル版]

個人含め社会のニーズを満たすには、企業などのあらゆる組織は、そのサービス(製品)について企業本位であってはならない。顧客本位のサービスを供給することでのみそれは満たされる。このため、顧客の現実、欲求、価値からスタートせよとも指示しています。

  • つまり、顧客の欲求を満たすサービス(製品)を創造し続けることが質の向上であり、
  • 創造するための現実からのジャンプ台が採算性の向上なのです。

サービスの質に関しては、担保するだけでは事業の継続性に欠けます。現状を維持するだけでは近い将来、陳腐化し、顧客のニーズを満たすものではなくなります。必要とされなければ、存在意義を無くします。

このことから、社会の一機関として存在を許されるのは、採算性を向上させ、その利益を持って未来の新しいより良いサービスを創造し続ける組織のみだと、ドラッカーは提唱します。

介護施設における質と採算性の向上

つまるところ、なるべく個別ケアに近い集団ケアを行う事で、質と効率性の均衡を保ち、なおかつ、個別ケアにより近づける工夫が、介護施設における質の向上であり、ひいては、採算性を向上させるのです。

また、介護保険制度上その基本理念となるのは自立支援であり、介護保険制度上の介護施設においては、自立支援することが目的となります。

このことから、介護施設の役割は、自立支援という名のサービスの採算性を担保し、利用者のニーズに合わせ、提供することとなるのです。

その自立支援の質を高めることは、より多くのニーズを満たすことで採算性を向上させることに繋がり、より良いケアを創造する原資ともなります。

集団ケアを行いつつ個別ケアに近づける工夫

介護施設の目的は複数入居する高齢者への自立支援であり、その具体的方策はユニットケアやグループケアによる集団の細分化です。

利用者を集団で捉えるのではなく個別化することで、本人のニーズにあったサービスを提供し、その質を担保します。

一対多数にサービス提供する介護施設では、グループケアを用い利用者を欲求の段階に応じてグループで捉え、その段階に応じたサービスを展開するのが、質と採算性を担保するうえで現実的な方法となります。

まとめ

介護施設へ入居されている方のADLも様々で、嚥下の状態が悪く胃から直接、栄養を摂る方もいれば「明日は何を食べにでかけようか」と自室のクローゼットを開け身なりの思案される方もいます。

嚥下状態が悪く、食べるものや寝ることにも事欠くような状況では、髪型とか服装とかそれどころではありません。

逆に、毎食自分で食べれて睡眠も確保できる入居者は、もっと美味しいものをと、つぎは外食したいと考えるかもしれませんし、もしかしたら、人目を気にして、お化粧や着て出かける服や身なりを気にされるのかもしれません。

いろんな状態の方が入居されており、十把一絡げにサービスを提供するのでは入居者もですが職員も疲弊します。欲求の段階に応じてサービスを展開することにより、自動的に利用者はセグメンテーションされます。

そして、必要なところへ必要なサービスと人員を配置することが、介護施設の質と採算性を担保することになるのです。