介護事業における成功循環モデル~介護✖ダニエル・キム ~その2

「人が足りない足りないって現場は言うが、必要以上に配置してるはずなんだが」

「看護師が介護業務に入ればもっと効率的に回せるのに、」

「私たちには数字は関係ない、それは管理者の仕事!!」

こんな風に、職員との意識のギャップに悩んでいることはありませんか?

職員の意識改革は、一見複雑で「まずどこから手をるけるべきか」と悩む人が大半です。

なんとなく、注意しているだけならそれ、逆効果です!!

もっと、コスパの良い職員管理術がありますよ!

実際に、高齢者施設の管理者として働いている私が

  • 成功循環モデルが職員の意識管理に果たす役割
  • 成功循環モデル導入のポイント
  • 実際に導入した筆者の経験談

について紹介します。読み終わった後に実践すれば、売り上げ上昇間違いなし!!

成功循環モデルが職員の意識管理に果たす役割

成功循環モデルは言うなれば、職員の自立支援策です。

ご存じの通り入居者に対する自立支援とは、できることは自ら行うよう支援することにありますが、「よし。やろう!」と、いかにして前向きな思考にさせるかは入居者と職員の関係性にあります。

それは、上下の関係ではなく「あんたが言うならやろう」かとか「あんたが一緒ならしてみよう」という横の関係性による動機づけに他なりません。

この様な、入居者に対する自立支援同様、管理監督者が職員に対して自立支援を行い、管理監督者含めミッションに係る職員同士が、チームとしてお互いの違いを認め受容する横の関係こそ、ダニエル・キム氏の提唱する成功循環モデルなのだと思います。


成功循環モデルとは、

関係の質を高めることで信頼関係を構築し、

思考の質を高めることで多様な視点からの考察を可能にする。

行動の質を高めることで自発的かつ協働が可能となる。

その結果として、組織のパフォーマンスが高まり、

さらに関係性は深まる。

byダニエル・キム

チーム内で信頼関係を構築し、 (関係の質)
様々な考え方を受容することで、(思考の質)
自発的な行動に結びつけ、   (行動の質)
より良い結果を出す。     (結果の質)

そして、より良い結果は、所属するチームの肯定感から、「こんな優れたチームに私は所属しているんだ!優れたチームに所属している私も優れているはずだ」と自己肯定感の客観的な証拠となることで、お互いの関係の質もさらに良くなり、持続的かつ自発的な正のスパイラル=グッドサイクルは回りだします。


成功循環モデル導入のポイント

成功循環モデルに足りないもの

ただ、介護事業の運営においては、より少ない人数で事業所を運営し、なおかつ、高い稼働率を維持することが命題です。


組織運営においては成功循環モデルの横の関係だけでなく、一つの目標に向かって進む縦の関係も求められるのです。

縦の関係とは法人理念を職員へ落とし込むことです。

人件費抑制のカギは職場の人間関係にあり。関係を改善すれば経費削減、間違いなし!!(過去記事)

管理監督者のすべきことは、成功循環モデルに組織の理念を落とし込むこと。

グッドサイクルはチームですべきことで、同時並行して管理監督者は別にしなければならないことがあります。

自立支援者たる管理監督者は、良い結果を目標として定め、良い結果を得るため行動の質を向上させる戦略(主戦場)と役割(前衛後衛補給)を策定するひつようがあります。

質の良い行動をさせるためには、思考の質を向上させるため訓練の機会を提供する必要があります。

そして、のびのびと自由闊達に戦える様、グサッと背後から味方に刺されることのない心理的に安心できる環境を構築する必要があるのです。

「介護事業の運営における成功循環モデル」

よい結果とは、

ー 高い稼働率と適正な人件費率を両立させ、安定した収入を得ること。

よりよい結果を得るための行動の質の改善(どこでどう戦うか)とは、

ー 個別ケアと業務改善の推進。

より良い行動を促す、思考の質の改善(それぞれの役割)とは、

ー 介護業務をより効率的に提供しようと思考すること。

より良い思考を促す、関係の質の改善とは、

ー 心理的に安全な環境を構築すること。

  • 介護事業の運営における成功循環モデルです。
  • 50人程度の中小規模の介護付きを想定しています。
  • スポット的な軽介助で生活できる入居者がメインの平均介護度が低い施設設定です。

よい結果とは、高い稼働率と適正な人件費率を両立させ、安定した収入を得ること

安定した収入を得ることが、事業を継続していくうえで必要となります。そのためには、収入の最大化と支出の最小化が我々に課せられたミッションとなります。

収入の最大化と支出の最小化する方法はいくつかあり、思いつくものとして以下のものがあげられます。

収入の最大化

ー 高い稼働率の維持

ー 利用料の値上げ

ー 重度者の受け入れ

ー 各種加算の取得

ー 保険外サービスの拡充・・・etc.

支出の最小化

ー 人件費の抑制

ー 委託費の見直し

ー 借入金の見直し

ー ICT化による経費削減

ー 補助金の活用・・・etc.

この中の、高い稼働率の維持と人件費の抑制は24時間365日行う施策です。このため、成功循環モデルに落とし込むことで常に循環させ、半自動的に結果を得ることができるのです。

他の利用料や委託費の見直しなどのスポット的な施策と、同時並行的に行うとさらに安定した収入の獲得に繋がります。

高い稼働率の維持と人件費を抑制するためには、個別ケア業務改善(全職員による介護サービスの提供)が必要

高い稼働率を維持するには、問い合わせ件数を増やすことが重要

個別ケアによる特色のあるサービスを提供することで、施設のステークホルダーへのアピールを行い、問い合わせの増加を狙います。

問い合わせの件数が増えれば、分母が増えることにより入居の申し込み件数も増え、待機者の確保に繋がります。

待機者を確保することで退去後の空床に対し、早急に対応することができ、結果として稼働率は上昇します。

人件費を抑制するには、全職員が介護サービスを提供するよう業務改善が必要

人件費を抑制するためこには、全職員が職種の区別なく介護業務を手段としてリハビリ及び看護サービスを提供する必要があります。そこで、各職種の所属と役割を以下のように定義します。

職  種:介護職
所  属:自立支援部 自立支援総合科
役  割:生活支援を使命とし介護業務を手段として残存機能を最大限生かすよう係わる

職  種:看護職
所  属:自立支援部 予防的看護科
役  割:予防的な看護の視点から介護業務を手段として医療的処置が少なくなるよう係わる

職  種:リハ職
所  属:自立支援部 生活リハビリ科
役  割:生活リハビリの視点から介護業務を手段としてADLが向上するよう係わる

この所属と役割から自己の業務内容を見直し、全職員が職種の区別なく介護サービスの提供を自発的に行えたら、最高ですね。

行動の改善を促すためのより良い思考方法とは、介護業務をより効率的に提供しようと思考すること

仮定として、大多数の職員は介護業務をしたいわけではありません。なので、看護やリハも同じく、ほっておくといつまでも入りません。

このため、管理する側としては、看護やリハが介護業務に携わる良いチャンスを意図的に提供する必要があります。

まず、入居者はADL別にフロアごともしくはユニットごとに大別し、常に介護を必要とする重度者を集めたフロアへ介護だけでなく看護もリハも投入します。

介護の現場は家庭を持った女子の職場ですので、突発的な欠勤はよくあります。

そんな時こそ、看護やリハが介護業務に携わる良いチャ~ンス!!

介護が欠勤等で突如いなくなった場合には、現場を回すため介護業務に係わらざるを得ないのです。

自発的な行動ではないので非生産的かもしれませんが、大前提として介護業務をしたがらないのですから仕方がありません。

しかし、安心してください。

外発的動機付けと内発的動機付けは一つの直線状にあります。

最初は人に言われて始めたことでも、事項で述べる心理的安全性を高めた職場を常に醸成し関係性を改善し続けることで

いつかは、自分の考えとして「介護業務を効率的に提供するにはどうしたらよいか」と思考してくれるはずです。

思考の改善を促すより良い関係とは、 心理的に安全な環境を構築すること

成功循環モデルの肝は関係性の改善です。

管理監督者のすべきことは、心理的に安全な環境を構築することです。

心理的安全性とは何か、エイミー・C・エドモンドソン教授が著書「恐れのない組織」で提唱した組織マネジメント論で「率直に思ったことを組織内で言い合える環境」と定義されています。



エドモンドソン教授「恐れのない組織」を参考に、石井 遼介氏は、その著書「心理的安全性のつくりかた」の中で日本人版心理的安全性について述べています。



より良い結果を出すため、職員が戦うべき主戦場とそこでの役割を決め、勝利するための学習訓練の場も提供します。「さぁ、あとは、自由に戦え。となるのですが、背後からグサッと味方に刺されるかもしれないという状況ではおちおち目の前の敵と戦えません。

そのため、管理監督者は、常日頃から事業所内に多様性と衝突を受け入れる文化の醸成に努めます。

これは、管理監督者自らが職員の多様性と職員との衝突を受け入れ、決して、衝突したとしても排除はしない、意見が違っていても大丈夫という姿勢を示すことで、前のめりした結果のリスクは歓迎することにつながります。

そうすることで、職員間の関係も仲良しこよしの排他的同調なれ合いの集団から、一つの目標に向かい自発的により良い結果を求める集団へと変貌することでしょう。

実際に導入した筆者の経験談

導入までに至った経緯は以下の過去記事を参照ください。

介護事業の成功循環モデルに進めるうえで、法人の理念を職員に落とし込むには、評価項目を作成することが有効でした。

過去記事参照「評価項目の作成」

あと、一番有効だったのは、僕には排他的でしたが心理的安全性を担保できる職員を現場の役職者へ据えたことでした。

まとめ

数は力であり、少数精鋭で能力の高い職員を集めても個人行動では各個撃破されその運用には限界があります。

少ない人数で効率的にサービスを提供しようとするならチームとしてまとまり、より大きな相手に立ち向かう必要があるのです。

単なる群れからチームとしてまとまるには、共通の目標を共有する必要があり、目標を共有しその達成のために能動的に動けるチームを作る必要があります。その手段として、成功循環モデルが有効となるのです。

強いチームとは目標を共有し、目標の達成のためそれぞれが自ら考え行動できる個々の集まりが強いチームといえます。