「はーい、じゃぁ皆さんご飯の時間ですよー」
「今腹減ってないけど・・・しかも、また魚か」
「つぎは、歯を磨きましょう」
「まだ食べ終わってないのに・・・」
「じゃ皆さんで、お歌を歌いましょう!さんっ、はい」
「こんな子供のするような遊び事はしたくない」
「個別ケアが重要だなんてことは知ってる!!」
「人が足りないからできなんだ」
「流れ作業を何とかしたい」
「本当はもっと寄り添ったケアを提供したい」
「できるだけ無駄な業務を減らして、人件費を抑制したい」
「しかし、人を減らすと、レクや行事ごとに手が回らなくなる」
誰しもが、好きな時間に起きて、好きなものを食べ、好きな仲間と、好きな事をして過ごしたいものです。しかし、現実は、利用者の要望はわかれど、施設としての事情からみんな一緒くたの集団ケアに終始しがちです。
実際にわたしは介護施設の介護職員として、ケアの理想は解れど、現実とのすり合わせの具体的方法論がわからず、行き当たりばったりのケアをしていました。
また、サービスの質の向上と事業の採算性の両方を考えなければならない立場の方には、痛しかゆしの課題でもあります。
- サービス(人)量を減らすと質は下がり、また、一時的には採算性も向上しますが、長期的な効果として考えると疑問が残ります。
- サービス(人)量を増やすと質は上がりますが、採算性は低下し、体力によりますがジリ貧です。
元々介護職員として働き、現在は介護施設の管理者として働いている経験から、ひとつわかったことがあります。
それは、
「そもそも介護施設は集団ケアであり、個別ケア(より良いケア)は集団ケアの延長線上にある」
ということです。
現在を否定することなくどうすれば理想に近づけるか、その方法についてご紹介します。
この記事をよめば、利用者の満足度は向上し、なおかつ、職員含め事業所の満足度も向上すること間違いなし!!
介護施設におけるケアの課題
介護保険制度上、要介護者への自立支援を行うことがその基本理念にあり、その手段方法として介護施設が存在します。介護施設においては、入所する要介護者に対して自立支援サービスを提供することがその目的となり、その手法を「ケア」と呼びます。
在宅での訪問介護などを利用したサービス提供は1対1のサービスですが、そもそも、介護施設でのサービス提供は1対多数が原則です。つまり、多数に対してより良いケアを行うにはどうしたらよいかが課題となります。
多数に対するケアの種類
介護保険サービスを行う施設には人員基準があります。要介護者3人に対して1人の常勤介護職員の配置義務があり、例えば、60人入居の施設であれば、20人の常勤介護職員を雇う必要があります。
また、常にその20人の介護職員が施設内にいるわけではなく、公休や有給休暇の人もいれば、夜勤の勤務日だったり、夜勤の明けだったりと、実際に施設内にいる職員は半数程度となります。
この例でいえば、60人に対し10人未満で食事、入浴、排せつなどの介護サービスを提供することが求められるため、多数に効率よくサービスを提供する方法、手段が必要となります。
その主な方法、手段として
- 集団ケア
- 個別ケア
- ユニットケア
- グループケア
があります。
集団ケアと個別ケアの関係性
集団ケアと個別ケアは対極にありますが、この両者は直線上にも存在します。
集団ケアについて
メリット
集団ケアは少人数で多人数に対し掃除にサービス提供をする介護施設での手段や方法のベースとなるものです。あくまでも、人間性に配慮した上でですが、集団化し介護の手間を極力省くことで生産性、効率性を担う役割があります。
デメリット
集団処遇に沿って決められたタイムスケジュールに沿ってサービスは提供されるため、本記事の冒頭のごとく「ハイ、皆さん~の時間ですよ」と十把一絡げの集団行動となります。
個別ケアについて
メリット
その対極にある個別ケアは、サービスの質を担保し、向上させる役割があります。細分化し個別化することで対象者のニーズを満たし、質の向上を図ります。
デメリット
誰しもができることではないという点です。特に、離職率が高い介護の現場は知識と経験の蓄積が難しく、人材の確保に苦慮します。
個別ケアか集団ケアかではない
個別ケアと集団ケアの2者択一では、職員か利用者か、どちらかが疲弊してしまいます。2者択一ではなく、ベースとして集団ケアがありその行き着く先として個別ケアがあるんです。
ユニットケアとグループケアの関係性
そして、ユニットケアとグループケアは、集団ケアと個別ケアの直線上の中間に支点として位置し、両者のバランスを保つ役割があります。
集団ケアと個別ケアののバランスを、ユニットケアやグループケアなどのサービス提供方法を利用し、うまく保つことが、サービスの質と事業の採算性を担保することとなり得るのです。
ユニットケアとは
メリット
10人以下の固定された入居者での共同生活になります。職員も固定されたメンバーで、顔なじみのメンバーで構成されているため、認知症があり記憶に障害がある方でも、生活にある程度の連続性を持たせることができます。
デメリット
固定するというのが一番のデメリットとなります。満足に食べれない人と、週末はどこに食べに行こうかと思案する人など、様々なニーズが混在してしまい利用者のふりえきにもなります。また、複数ユニットがあるとその平均介護度には差があり、介護の手間の大小があります。大小があるのに職員配置は一緒では人件費の無駄で運営上も好ましくありません。
グループケアとは
メリット
人数に制限はなくADLや介護度、などで大別し、その状態に応じてグループ間を流動的に行き来します。職員も流動的なため、介助の手間が必要なグループへ集中して職員を配置することができます。
デメリット
状態に応じて住み替えるというのは一見、職員主体で利用者本位ではないところです。しかし、あくまでもその方の精神状態を含めたADLの改善に寄与するものであれば、理解を促すことも必要に思います。
以下のサイトで個別ケアと集団ケア(集団処遇)、個別ケアの手法としてユニットケアとグループケアについて簡潔な説明が書かれています。
超高齢化社会を迎えている日本。高齢者介護の現場でも、個人としての尊厳を支える支援が重視されつつあり、集団処遇から個別ケアへの移行が進んでいます。今回は、個別ケアの現状や具体的な手法、将来に向けての課題について探ってみます。
おすすめはグループケア
私のおススメは、グループケアです。
利用者を任意のグループに大別し、それぞれの段階に応じた自立支援サービスを展開するグループケアは、より良いサービスを効率的に提供することが可能です。
利用者が60人いたら60種類のサービスを提供するのは理想的ですが、非現実的です。
グループケアであれば、集団ケアの人もいれば10人単位のグループもあり、また、集団ケアを行うことで余った職員がマンツーマンで個別ケアを行うなど、集団ケアをベースに個別ケアを行うことが可能です。
また、グループケアはユニットケアとは違い制度化されてないケアのため、明確な指針があるわけではありません。ですので、運用する側の、ケアと数字を結び付ける能力が問われます。
その分、縛りもなく自由に運用できるので、それぞれの施設の実情に応じたケアの実現に寄与するものと思います。
まとめ
介護施設で求められるケアとは、個別ケアか、集団ケアかの択一ではありません。
両者のバランスをとりつつ、なおかつ、個別ケアに近づける工夫が求められています。
個別ケアに近づける工夫とは、現状に甘んじないより良いケアの追求なのです。
例えば入浴介助ですが、半介助、一部介助の介助量での区別もそうですが、「自立して入浴される方には毎日でもどうぞ」と自立する動機付け環境を構築することも一つのアプローチです
レクリエーションに関しても従来通りの全入居者に向けた集団レクのほかに、グループごとにレクリエーションを設定することで、個人のニーズを満たすことができます。
また、自立度が高いグループになればなるほど、個人的な趣味嗜好のサービスニーズは高まるので、事業所内外問わず介護保険外の様々なサービスとのマッチングも視野に入れた運用を行うことで、個別ケアに近づける(より良いケア)のではないでしょうか。